三留商店

ていねいな発酵あってこそパネットーネ(ボローニャ)

パネットーネ(ボローニャ)

クリスマスケーキといえば、日本では、ビスキュイ生地にデコレーションを施したものを思い浮かべます。そんなイメージとは程遠いものが、このパネットーネ。ケーキというより巨大な 菓子パンのようですが、れっきとしたイタリアのクリスマスケーキです。
実は、お恥ずかしいことに、昨年まではパネットーネの本当のおいしさを知らずにおりました。もちろん食べたことはあったのですが、どれも感激するほどの味ではなかたというのが正直な感想。生半可の知識があったばかりに、去年は仕入れを控えてしまったのです。ところが、保存料などを使わず素材を生かしたと言うだけあり、このパネットーネは全く別もの。文字どおり飛ぶように売れ、肝心のクリスマスには在庫ゼロという状態でした。

これは、イタリアはボローニャの老舗菓子店「カラメッラ」製。オーナーのジーノ・ファッビ氏は、伝統製法を守りつつ、常に最良の材料を求め、すばらしい菓子を作ります。当然のことですが、生産料はごくわずか。少量だけに価格はやや高めになりますが、業界でも絶大な信頼を集め、その名を国中に馳せています。ボローニャ郊外にある店は、町外れの不便さのかかわらず、千客万来の繁盛振りとか。
このパネットーネを召し上がるときに、まず驚かれるには香りのよさでしょう。これだけでも材料が吟味されていることを、よくご理解いただけると思います。中は、オレンジ色のふんわりした生地。レーズン、オレンジピール、オレンジの砂糖漬け、アーモンドなどと渾然となって、独特の風味を醸し出しています。しかし、おいしさの秘密は生地そのもの。
小麦粉、卵黄、バター、砂糖がそれぞれ良質であるのはもちろん、決め手となるのはエヴィトマドレという発酵種。小麦粉と水を合わせたところへ発酵菌を加え、三時間ごとに新しい粉と水を足しながら三倍まで膨らませ、丸二日間かけて種を作るそうです。

三日目には他の材料を加えてパネットーネ型に入れ、一定の温度を保って寝かせること六~八時間。これをオーブンで焼いて取り出し、一時間休ませたのち、逆さまにして寝かします。この逆さまにするタイミングが、もっとも重要だとか。いずれ、長年の経験から得た勘が物をいうのでしょう。
伝統食品の例に漏れず、パネットーネの由来も諸説粉々。一説に一七〇〇年ころ、ミラノのパン職人トニーが焼いて評判を呼び、“トニーのパン”が転じて名付けられたといいます。
召し上がる際にオーブンで軽く温めると、静かに眠って香りがいっせいに目覚め、芳香をより楽しんでいただけること請け合いです。今年は多めに注文しました。間もなく航空便で到着するでしょう。(クリスマスシーズンのみ)

三留商店主人より

「四季の味」No.27/冬号 寄稿