貴腐ワインに漬け込んだドライレーズン 気品あふれるチョコレートショコラ・ド・ソーテルヌ
「貴腐ワインのチョコレート」
これは、手作りの味を頑なに守り続けるヴェルディエ社の製品。貴腐ワインに漬け込んだドライレーズンにチョコレートをまとわせた、なんとも気品あふれるお菓子です。一粒つまめば、たちまち口いっぱいに芳醇な香りが広がって、陶然となるほど。そのエレガントな余韻にも、みなさんきっと驚かれるでしょう。
貴腐ワインは、ボトリティス・シネレアというかび菌を纏うことによって糖度が高まった葡萄で造る、黄金色のデザートワイン。この菌の効果で果皮が溶けて果肉の水分が蒸発し、糖分が濃縮することを貴腐といい、コクのある甘みと高貴な香りを併せ持った、独特の味わいを生み出します。
貴腐は、葡萄が成熟する時季に朝霧が立ちこめる、特殊な気候を持つ土地でしか現れません。高湿度によって繁殖した菌が午後の好天によって乾燥するーこれを繰り返すことが必須の条件となるのです。フランスでは、ボルドーのソーテルヌ地区が、その名産地としてつとに名高く、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ、ハンガリーのトカイとともに、世界三大貴腐ワインのひとつに数えられています。
この粒チョコレートに使われているワインは、ソーテルヌの貴腐葡萄で造るシャトー・サン・ミシェル。一八七五年創業の家族経営のワイナリー、メゾン・リヴィエールが醸造したもので、きわめて質の高い貴腐ワインとして定評のある銘柄です。これにドライレーズンを漬け込むこと数時間。風味がしっかりと移ったら、水分を逃さないよう表面に砂糖をまぶしてから、熟練の職人さんたちが球状の銅釜をゆっくり回しながらチョコレートを絡めます。チョコレートは、高級レストランのデザートにも使われている、ヴァローナ社の製品を惜しげもなく使用。カカオ70パーセントのビターな甘みが、貴腐ワインの香りとしっくり溶け合って、絶妙なハーモニーを醸すというわけです。
現地では、ル・レザン・ドレ(黄金の葡萄)と呼ばれ、登録商標も得ているとか。ついつい手が止らなくなるおいしさで、食後のひとときが充実すること請け合いです。ワイン好き、チョコレート好きな方はもちろん、ラベルにハートマークが描かれているので、バレンタインデーの贈物にもぴったりではないでしょうか。
三留商店主人より
「四季の味」No.71/冬号 寄稿