三留商店

余韻豊かな液体の宝石マリエンホーフ社の「リケール」

マリエンホーフ社のリケール
リキュールというと、カクテルやケーキの香りづけ用のお酒と思われがちです。しかしさにあらず。花や果物から造られた、ドイツはマリエンホーフ社のリケールをお飲みになれば、その考えはたちまち覆されるはずです。

マリエンホーフ社は、秘伝の製法を守るために、従業員をニ~三人にとどめた家族経営の会社。無香料、無着色を信念とし、吟味した新鮮な材料のみで、妥協をいっさい許さずにじっくりと手をかけて造っています。
それゆえ、素材そのものの香りや旨味が強いのですが、甘味は引き締まっていて、飲んだあとの余韻が驚くほど長いのが特徴です。まさしく「液体の宝石」と呼ばれるにふさわしい、至高のリケールといえるでしょう。
このリケールを日本に伝えるために孤軍奮闘している女性がいます。彼女の名前は中尾友紀さん。香川県でOLをしていた八年ほで前に、ドイツ人から「日本にはストレートで飲める、食後酒としてのリケールがない」と輸入を勧められたことが、そもそもの始まりでした。お酒の知識もなく、会社にも仕入れの意志がなかったので断りましたが、情熱あふれるメールが再三届き、ついに天職だと思って退社し、輸入を手掛ける決心をしました。
しかし、順風満帆とはいかず、厭世的になることもありましたが、ドイツを訪ねて、実際にその土地の空気や人柄に触れたことが原動力となり、ようやく少量ながら日本初輸入が実現します。その後、一本一本手探りで販売したものの、香川での営業に限界を感じて上京。アルバイトで家賃を捻出しながら、売り込みを重ねたそうです。

現在も百貨店やイベント会場で試飲会を行うなど、たった一人で普及に努めています。「リケールは単なる嗜好品ではなくまさに文化であり、その幅広さと奥行きを伝えたい。この壮大な文化を支える役割を担っていきたい」とのこと。彼女の勉強熱心で謙虚な姿勢には頭が下がる思いです。

さて、このリケールのラインナップは十数種類に及びますが、中尾さんのイチ押しはローゼン・リケール。朝摘みの薔薇のエキスを二週間かけて蒸留し、最高級のブランデーに合わせたもので、なんと一本のリケールに一キロ以上の薔薇を使用するとか。
雑味のない自然な味わいに仕上げるため、白砂糖を使わずビートで甘味をつけています。その香りのよさはまさに無類。肌に艶や潤いを与え、血管の老化防止やリラックス効果もあるそうです。

これはやはり、ストレートかオンザロックで愉しむのがおすすめ。食後やお休みの前のひとときに、音楽を聴いたり読書をしながら飲むと、豊かな余韻で心がゆったりとして、至福の陶酔が得られるでしょう。

三留商店主人より

「四季の味」No.59/冬号 寄稿