三留商店

シチリアの自然の結晶ジュゼッペ・コニーリオの「サボテンの花の蜂蜜」

ジュゼッペ・コニーリオの「サボテンの花の蜂蜜」
イタリア南端のシチリア島は、温暖な気候に恵まれているため、一年を通じて多彩な花が咲き乱れます。
それぞれの花の最盛期を見計らって蜂とともに島を移動し、蜂蜜を採取している養蜂業者がジュゼッペ・コニーリオ。業者といってもまったくの個人で、家族総出で製品化しています。
花を提供してもらうのは、自然農法の農家のみ。数あるシチリアの蜂蜜のなかで、いち早く自然環境保護認証協会の認定を受けたことでも、その質の良さをお解りいただけるでしょう。

ラインナップは、オレンジやレモンをはじめ、クローバー、タイム、アカシア、栗などさまざまですが、なかでもちょっと珍しいのが、サボテンの花の蜂蜜。サボテン自体は、シチリアではよく目にするものですが、その蜂蜜となると他に例がありません。 これに使われるサボテンは、フィーコディンディア(フィーコ・ディ・インディア=インドのいちじく)と呼ばれる食用種。楕円形に近い卵形で、色はオレンジがかった赤。実は締まっていて、汁気の多いのが特徴です。花は黄緑色で蜂蜜は毎年七月に島の中部のエンナ郊外で採取されます。この密は栄養価が高く、とくにミネラル分が多く含まれているとか。味も香りも、クセが全くないので、どなたにも喜ばれるでしょう。
フィーコディンディアは低血圧治療、強壮作用、利尿作用等の薬効性があり、シチリアでは古くから民間治療薬として食べられてきました。その起源は定かではなく、スペイン人が新大陸発見直後にメキシコから携えてきたほか、サラセン人が八二七年のマッツァーラ上陸の際に持ち込んだなど諸説ありますが、フィーコディンディアという名前から推測してアジア渡来説が有力との見方が多いようです。

起源はどうであれ、シチリアとサボテンとの結びつきは強く、とりわけ貧しい階級の人々の生活を象徴するものとされてきました。大戦の悲しい思い出を持つ年配の農民たちは、今でもこの果実を「貧しい人々のパン」と呼んでいるそうです。ただ三~四年前までは、荷馬が行き交うような田舎道といえば、両側一面にサボテンが生茂っていたそうですが、近年ではアスファルト道路が行き渡って、そんなのどかな光景はまったく失われてしまいました。人里を離れて、岩や石がごろごろしている不毛の土地へ行かなければ、サボテンは見られなくなってしまったのです。

サボテンに限らず、シチリアでは宅地化がすすんで、自然の野山に徐々に人間の手が入り込み、お花畑も減少しつつあります。また近年の異常気象の影響を受け、枇杷にいたっては、ここ三年も蜜を採取できていないとか。養蜂業者たちは、こんな現状のもとで奮闘を続けています。

三留商店主人より

「四季の味」No.42/秋号 寄稿